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伝統医学 Vol.7 No.1 March 2004 掲載記事

鼎談 めまいの中医学治療

めまいの中医学治療

西洋医学的にみても、中医学的にみても、めまいの症状や原因はさまざまである。臨床で両医学をどう応用していくかが肝要である。耳鼻咽喉科・循環器・漢方をそれぞれご専門とする先生方に、日常よくみられるめまいについて幅広い検討を加えていただいた。

中医学に取り組んで

平馬 方宇 呉

平馬:今日のテーマは「めまいの中医学的治療」ですが、めまいは耳鼻科的めまい、脳神経が関係するめまい、心因性のめまいなど、原因もさまざまですし、症状も回転性のめまい、浮動性のめまい、身体の動揺感あるいは、めまい感というようなものまで様々です。患者さんは、そのどれも「めまい」として訴えますので、今日はそれらすべてを含めて、広くめまいとしてお話いただきたいと思います。

はじめに自己紹介を兼ねて、両先生に中医学に取り組まれるようになった経緯などをお話いただいて、それから本題に入りたいと思います。

呉:私は台湾生まれで、高校を卒業してから日本に来て医大で勉強しました。周りの人は、私が台湾出身なので当然、中医学に対しても知識をもっているだろうと思い込んでいて、いろいろ質問を受けることが多かったのです。それで、これは中医学を勉強しないといけないなあと思い、北京に留学しました。それから本格的な勉強を始めたわけですが、中医学の面白さや深さにすっかり引き込まれてしまいました。

日本に帰って来てからも、機会があれば大学で中医学的治療に取り組んでいます。臨床経験はまだまだ浅いですし、外科医ですからメスを握って仕事をするのがほとんどですが、外科的な治療でうまくいかないときには、中医学の方法でトライしてみようかな、という気持ちが湧いてきますね。

方宇:私も台湾出身で、親戚に漢方医がいたので、小さい頃から漢方については興味がありました。それで医学部に入ったときに漢方研究会を作って、みんなでテキストを購入して勉強していました。
そのころは日本漢方が主流で、勉強していると時々矛盾点に当たるんですね。それで今度は中医学のテキストを見ると、途端に目からウロコが落ちたというか、非常に理路整然としていてわかりやすいわけです。

それで医者になってから研修先で院長先生の了解を得て、少しずつ漢方薬を併用した治療をやらせていただきました。先輩の先生方が治せない患者さんが何人かいたのですが、それが漢方で意外と簡単に治ったということがあって、その病院からも少し漢方の存在を認めていただくことができました。自分でも、これは役に立つと思って、さらに勉強を深めていきました。

今は開業して患者さんを診ていますが、やはり普通の治療では難渋するような症例にあたると漢方を使います。漢方で意外と簡単に治る場合がよくあります。

平馬:日常診療の中で漢方薬を投与する患者さんの割合はどのくらいですか。

方宇:季節によっても違いますが、併用と単独を合わせて2,3割でしょうか。遠くから漢方を求めてわざわざ来られた方に対しては、煎じ薬を処方しています。処方箋を薬局に出しているのですが、薬局には「これは人助けだという気持ちでやってください」というふうにお願いしています。薬局にとっては、どうも生薬は赤字らしいのです。

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西洋医学的なめまいのとらえかたで

平馬:それではめまいについてのお話に移りたいと思います。まず、呉先生にめまいについて西洋医学的な解説をしていただいて、方宇先生に補足していただきましょう。

呉:西洋医学的な見方でめまいを大まかに分けると、末梢前庭性・中枢前庭性・非前庭性の3つのタイプがあります。疾患名でいうと、末梢前庭性のものには、メニエール病・突発性難聴・前庭神経炎・良性発作性頭位眩暈症(BPPV)などがあります。このうち聴力にも影響が出るのは、メニエール病と突発性難聴です。

BPPVは耳石が原因になっていることが多く、聴力検査はほぼ正常です。前庭神経炎は、ウイルスの感染が原因ではないかといわれています。2~3週間安静にすればめまい症状は次第に軽快し、平均して1ヶ月で社会復帰ができますが、多くの症例においては、感染側の前庭神経機能は、通常完全に元には戻りません。しかし、聴力にはまったく影響しません。中枢前庭性のめまいには、小脳梗塞や聴神経腫瘍などがあります。これらは命に関わってくることがありますから、疑わしい場合は、画像診断を行うなど注意して診断することが必要です。非前庭性のめまいには、糖尿病・血圧の異常・自律神経失調症などの全身性疾患が関与していることが多いです。また、最近は不安障害などの心因性のめまいが増えています。

めまいに対する有用な検査方法として、聴覚検査のほかに眼振検査という眼球の運動検査があります。人間の平衡感覚は、前庭眼反射・前庭脊髄反射・前庭自律神経反射の3つの反射によって保たれています。バランスが崩れたときには、何らかの反射障害が出てきます。眼振検査ではまず、注視眼振と自発眼振をみます。中枢前庭性めまいの場合は、注視眼振・自発眼振の検査では両方とも眼振が起きますが、末梢前庭性めまいの場合は、注視眼振が抑制されて自発眼振しか出ません。非前庭性のものは多くの場合、両方とも出ないのが特徴です。眼振を確認するだけでもある程度臨床診断がつくので、ぜひ臨床の場で応用されたらよいと思います。

平馬:耳鼻科や脳神経外科に任せるべきめまいか、漢方の治療で治療すべきめまいかを鑑別するのにも、眼振の検査は特に有用であるということですね。

血圧異常からくるめまいについてですが、これは高血圧でも低血圧でも起こりますね。また降圧剤の副作用でも起こることがあると思いますが。

方宇:高血圧歴の長い方は、いきなり血圧を正常まで下げるとめまいを起こすことがあります。ですから降圧剤を投与する前に「あなたの体は高い血圧に慣れてしまっているから、下げたときにめまいを感じるかもしれませんよ」と必ず患者さんに言うようにしています。それでめまいが起こった場合には、もう少し弱い薬を使って時間をかけてゆっくり降圧します。また、低血圧の人でめまいを訴えてきた場合は、一般的には生活の指導をします。

平馬:中枢性めまいについてはいかがですか。

方宇:患者さんがめまいを訴えてきた場合には、中枢性か末梢性かということがまず頭に浮かびます。患者さんには必ず、天井がグルグル回るのか、あるいは頭がフワフワ浮いて立てないのか、あるいは体に安定性が保てないのか、ということを聞いてみます。
そのあと、呉先生がおっしゃったように眼振があるかどうかをみて、これは耳の方かなあと思ったら、すぐに耳鼻科に紹介してしまいます。血圧が非常に高くてフワフワ浮いた感じがする、後頭部が張っている、肩がこっている、という場合には中枢性を考えます。
あまりに危ない血圧の場合は、専門医を紹介しますが、250mmHgくらいまでだったら、私のところでまず降圧をはかってフワフワ感が消えていくかどうか観察します。たいていは降圧剤を投与して30分から1時間くらいで血圧が下がるに従って、症状が取れていきます。それでもフワフワ感がなかなか取れなくて、手が痺れる・舌がもつれるなどの神経症状が出た場合には脳血栓や脳出血を疑って、これはもう脳外科に送ってしまいます。町医者としてできることだけをやって、少しでもリスクのあるものは専門の所に紹介するという考え方で対処しています。

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