TREATISE

西洋医学が無効だった症例

平馬:それでは具体的な症例をご紹介いただけますか。

呉:西洋医学の無力さを感じさせられた症例です。
51歳の女性。主訴はめまいと浮遊感。35歳の時に子宮内膜症で子宮を全摘出。37歳の時に乳がんで右乳房を切除。49歳の時に上室性期外収縮で1週間ほど入院し保存的加療。高血圧と糖尿はありませんでした。
21歳で結婚されて、32歳で離婚。その後家族と別居していましたが、ここ数年深夜の仕事をしている息子さんと同居するようになって、生活パターンのすれ違いによって、しばしば夜は熟睡できず、日頃から息子さんとの意見の衝突や口論が絶えなかった。

現病歴についてですが、2000年1月にめまいの発作が起こり、他院で入院加療。発作の半年前から極度のストレスと睡眠不足などで心身ともに疲れていたそうです。退院後も完全にめまい感が取れずに浮動感が続いた。2001年4月初旬から再びめまい感が増強し、特に体勢が変るたびに強いめまい感に襲われました。

同年4月に再び近医を受診して立つことができないほどふらつき、舌の痺れとげっぷを訴えました。
しかし、そのとき明らかな眼振はみられませんでした。1日病院で安静にして点滴を受けたが症状が続くため、翌日うちの大学に紹介入院となりました。
第一印象はとにかく表情が物憂げだということでした。声が弱々しく顔面蒼白でまったく生気を感じませんでした。精神的緊張は高く、さまざまな愁訴を一所懸命に訴えかけてきました。

身長159cmで体重42kg、本人によるとベスト体重は46kg。シェロングテストの結果は低緊張型の低血圧症。耳鼻咽喉科の所見も聴覚検査は問題なし。
立ち直り反射では動揺しました。自発眼振・注視眼振・誘発眼振なし、つまり前庭眼球反射は異常なし。耳の単純X線と頭部のMRIも問題なし。8番目以外の脳神経症状はなし。動悸を訴えていたが心電図は正常範囲内。胸部X線も問題なし。一般血液検査では貧血傾向もなく、肝機能もよくコレステロール・中性脂肪も正常範囲内。ただし、ホルモン検査ではLHとFSHが高値でした。
1日中浮遊感が続くと時々耳鳴りも出る。げっぷ・動悸・息切れ・嘔気・腹痛・頭痛・舌尖の痺れ・食欲不振・歩行困難など、非常に多彩な症状が訴えられました。精神的には不安感が大きく神経質で、落ち着きのない様子。病気に対して強い恐怖心を抱き、身体症状の変化に敏感。そのために不眠が続いていた。
ここで、耳鼻科的診断としては心因性めまいに相当するものだろうと判断して、パキシル(R)やドクマチール(R)などの抗うつ剤・睡眠薬・循環ホルモン剤・神経賦活剤・代謝改善剤などさまざまな薬を使い、さらに簡易精神療法も合わせて施行しました。
入院後2週間が過ぎても、まったく症状の改善傾向がみられませんでした。精神科・婦人科・乳腺外科・循環器内科などにも診てもらいましたが、特に問題はないという返事でした。そこではじめて中医学の弁証をしてみたのです。

問診では、無気力・倦怠感・寝つきが悪くてよく夢を見る・お腹が張ってガスが出やすい・肩こり・足腰がだるくて冷える・温かいものを好む、という答えが得られました。
皮膚の光沢がなく、眼神・音声無力。腹力軟弱・小腹不仁・胃部振水音あり。舌は歯痕があって真っ白でした。脈は力がなくて速くて細い。弁証結果は典型的な気血不足証でした。主に脾虚と心虚が関係している状態だろうと思い、補血益気・健脾和胃・養心安神・理気化痰という治則を立て、帰脾湯と十全大補湯を出しました。同時に針治療も始めました。
すると1週間後にはげっぷや嘔気などの胃腸症状がほとんどなくなりました。それまで1日中、絶えずげっぷが出ていたのです。さらに3週間、同様の治療を続けたら不眠・ふらつき・歩行困難などが改善してきて本人からもう退院したいと言い出すまでになりました。
今はほとんど漢方を飲まずに過ごしていますが、感情的な起伏があった場合に十全大補湯と加味帰脾湯、補中益気湯などのエキス剤を出しています。現在の体重は45kgまで回復しました。
このように重症の全般性不安障害といえる症例であっても、うまく伝統医学治療を利用すれば、一般の治療薬よりも実にすばらしい臨床効果を収めることができると実感させられた一症例だと思います。

平馬:漢方薬の効果がはっきりと出た症例ですね。

高血圧の症例

方宇:私は漢方薬だけの単独治療をした症例を紹介します。 患者さんは68歳の女性で、西洋医学的な診断では高血圧と頭がフワフワ浮くようなめまいです。それと頭がハチマキで締めつけられるような痛みがあるといいます。
これは筋緊張性頭痛だと思いました。仕事は給食関係で、一日中立って忙しく仕事をしている間にフワフワする感じが出て、眼がかすんできて、頭が痛くなる。もともと人混みに行くと頭が重くなったり疲れやすかったりというタイプの人です。
来院時の血圧が160/92mmHgで脈拍は72で正常範囲。血色素が11.3Hbという軽い貧血ぐらいであとは異常ありません。胸のX線ではCTRが 51.5%ですから、大きいかどうかというくらいの心臓ですね。極端な高血圧ではないですし、初診の時は緊張して血圧が上がることが多いですから、少し経過をみて外来時の血圧を観察していきますと、大体150-160/84-90mmHgの血圧の方でした。

最初は筋緊張性頭痛を取るためにデパス(R)という薬を使い、減塩などの食事指導をしたり、休養を取るようにといったさまざまなアドバイスをして経過をみました。しかし、デパス(R)を使って頭痛は少し改善しましたが、フワフワ感はなかなか取れませんでした。血圧にもまったく影響しなかったので、この高血圧もストレス性のものではないと思われました。
それで中医学的には陰虚陽亢型であると考え、頭痛を伴っているので、まず釣藤散のエキス剤を投与してみました。
2001年6月11日のことです。投与した直前の血圧が150/90mmHgで、その2週間後の6月25日にはめまいがなくなって頭痛も消えました。血圧もその時点では130/70mmHgで、はじめて正常になりました。その後しばらく様子をみましたが、ときどき頭痛が起き、その頭痛もいつもの締めつけ感以外に拍動性頭痛が合併することもありました。
ただ、本人の訴えの頻度は少しずつ減ってきて、9月になると頭痛もめまいもまったく起こらなくなりました。その間血圧はずっと正常でした。10月になると眼のかすみもなくなってきて、血圧も120-130/70-80mmHgでずっと正常を保っています。もう薬をやめてもいいのですが、本人は飲んでいると安心感があるということで飲み続けています。

平馬:方宇先生の症例も漢方薬が非常によく効いた症例ですね。

めまいの予防剤

平馬:最後にめまいの予防についてですが、なにか外来で患者さんにアドバイスをしていることがあったらお願いします。

呉:まずは血圧の変動に気をつければよいのではないかと思います。心因性のめまいは別にして、実際にめまいが起きているときには血圧は必ず変動しています。めまいの患者さんは必ず血圧は高くなったり低くなったりしますから、どうも血圧が違ってきたというときに気をつけるようにすれば、それも1つの予防になるのではないでしょうか。

方宇:私の所で扱うめまいは、ほとんどが高血圧に付随するものですから、高血圧のための生活療法を指導しています。不規則な生活をしないこと、忙しすぎないようにすること、ストレスをため込まないこと、三食をきちんと食べること、よく寝ること、などのことをお話しています。一般的な養生法と同じだと思います。

平馬:私の所も、耳鼻科的または脳神経外科的な治療がどうしても必要な患者さんには、漢方の治療と同時に専門家にも治療を受けるように勧めます。
今日のお話に出たように血圧の変動によるものや心因性のめまいの場合、やはり心理的な動揺や不安感が症状を増幅させますから、患者さんには「時間がかかるかもしれないけれど、自然によくなっていきますから、それを漢方薬は助けることができます」といってなるべく安心してもらうようにしています。
痰濁タイプのものでは、生活習慣上、コレステロール値が高い場合もあるので、「今はめまいですんでいるけれども、食生活を改めないと脳梗塞や心筋梗塞への道を進んでいますよ」という言い方をして指導することもあります。高血圧そのものが心因性に動くことがあるので「あなたの場合はイライラしたり怒ったり家族と口げんかしたりするのは命を縮めることになりますよ」という話をするなど、証に合わせた生活指導をしています。

今日は内容の濃い座談会になりました。先生方、ありがとうございました。

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